社会人ドクターに興味があるけど、大学と仕事の両立が大変で一歩を踏み出せない方は多いのではないでしょうか?
周りの人に、
- 両立はきついからやめとけ
- 社会人ドクターはたいだい途中で断念するよ
といったことを言われることもあるかと思います。
私自身、社会人ドクターをやりたいけど両立できる自信がなくて何年も挑戦できずにいましたが、
実際に社会人ドクターで博士課程を終えてみると、
- 両立が大変なのは確かだけど、ちゃんと対策を取ると乗り越えられるものなのではないか
- 以前は知らなかっただけで、必要以上に両立の大変さを恐れていたのではないか
と思うようになりました。
この記事では、両立がきつそうという悩みを持った方に、私の経験・情報から、
- 大学と仕事の両立はどんな点で大変なのか
- その大変さを減らすための方法はどんなものか
- 大変さを減らすために、入学前にできること
- 番外編として、どうしてもキツくて無理そう、、という方に向けた提案
を解説します!
①両立が大変なポイントと対策(+あるあるな事例)
大学と仕事の両立が大変で、最終的に博士取得を断念してしまう人の典型パターンは、
- 平日は仕事が忙しくて研究をするために大学に行く時間が取れない
- 休日に集中的に実験等をして研究を進める
- 講義を受けて単位を取らなきゃいけないが、はずせない仕事があり大学に行けないこともあり、単位を落としてしまう
- 在学中に会社から転勤命令が出てしまい、遠方になり大学になかなか行けなくなる
といったことがあり、講義受講や研究が進間なくなってしまうイメージが多いのではないでしょうか。
実際にここまで困難が重なる方は少ないかもしれませんが、、、これらの困難が2,3個あるだけで社会人ドクターを断念する可能性はかなり大きくなってしまうほど大変なことです。
ここでは、それぞれの困難について、
- 実際にそんなに大変なのか
- 大変さを減らすための対策
を説明します。
平日に大学に行く時間がなくて研究が進まない+休日に集中的に実験をする
「時間がない」というのは社会人ドクターにとって一番の障壁です。
特に、研究の実験などは、”すきま時間”でがんばって進めるということはできず、
ちゃんとまとまった時間が必要になります。
そのため、「休日に集中的に実験をする」と考える方が多いのが実際です。
私自身も、実験をする時は週末や連休,有給休暇は半日休暇の取得等で休みをとって実験を行うことが多かったです。
しかし、近年は大学の学生に対する安全対策厳しくなり、
休日に実験をする場合は、監督者(指導教員や助教の先生等)がいないといけないというルールをとっているところがほとんどになっています。
そのため、休日に一人で大学に行って勝手に自由に実験をすることができなくなっています。
(自分の実験のために先生方に毎回休日出勤しろというのはなかなか無理がありますよね・・)
この点で、皆さんが修士の学生時代のイメージよりも、さらに休日実験に関する困難は大きくなっているというのが現実です。。
これに対する対策としては、
- 大量の実験を必要とする研究テーマを避け、リモートでもできるようなシミュレーション等を多く組み込む
- 外部の大型研究機関で短期集中の実験を行い成果に加える
等が挙げられます。
一つ目として、研究内容にリモートで実施可能なシミュレーション等を組み込むことをおすすめします。
化学・物理・機械・電気・バイオ等々、どの分野においても近年のシミュレーション技術の進歩は凄まじく、
またそれらの技術の研究も多く行われています。
そのため、研究テーマとして、実験だけでなくシミュレーションも組み合わせたものとすることは近年のトレンドにも沿っており、
また、なかなか大学に行くようなまとまった時間が平日に取れない社会人にとって、自宅からPCを使ってリモートで実施可能なシミュレーション系の研究は
進めやすくとても相性がいいです。
(逆に、実験ばかりの研究テーマとなってしまうと、正直なところ近年の大学の安全ルールのもとでは、やり遂げることがかなり厳しくなってしまいます。。。)
二つ目として、外部の大型研究機関で短期集中の試験を実施した成果を入れることです。
これはご存知ない方多いかもしれませんが、
学生の立場であっても国立の大きな研究機関で最先端の機器を使った実験が結構簡単にできるようになっています。
このような国立研究機関だからこそ保有しているような最先端大型設備を使った実験を研究内容に組み込むことができれば、
- 短期間で実施可能(というより、施設利用時間が限られるため短期間でやるしかない)
- 最先端の装置を使っているので、投稿論文を書くことができるような研究成果になりやすい
- 利用先の研究機関の専門家がアドバイスをくれるため、新たな視点を得てさらに良い成果になりやすい
というメリットがあります。
例えばですが、地学・化学・生命系の多くの研究者に利用されている大型の放射光施設であるSPring-8では、
(ざっくりいうと、「ものすごく強い放射線を使っていろんな測定をできる」施設。本当にすごいざっくりということご了承ください)
「大学院生提案型課題」というものの募集をしており、これに採択されれば現地の研究者のメンターの協力+施設利用料や交通費等の費用援助も得ながら放射光を使って3日間程度の集中的な実験を行うことができます。
http://www.spring8.or.jp/ja/students/budding/
(もちろん社会人ドクターも大学院生ですので申し込み可能です!)
大学院生に対していろんな研究機関・施設で似たような研究提案型利用等を募集していると思いますので、
ぜひ自身の研究テーマに活用できそうな研究機関の施設を探して研究内容に組み込むことを考えてみてください!
外せない仕事があって毎週フレックスや休みをとって講義に出席することができない
講義は実験と違って、日程を自分でコントロールできないため、
「3ヶ月間、毎週水曜の午後イチから」
といったような決まった日程で毎回出席=会社を抜けなくてはいけません。
でも、急な出張,絶対に外せない会議などがその日に入った場合、どうしても出られなくなってしまうことがあるかと思います。
大学のルールとして、1クオーター期間中に多くても2回までしか欠席を認められず、3回以上欠席すると単位を取れないことが多いうえに、
博士課程の講義は基本的に平日の日中にあるため、外せない業務とかぶってしまう危険性はかなり大きいです。
これに対する対策は、
- リモートで講義を受けられる大学,専攻を選ぶ
- 会社からの理解を得る+会社の予定表に毎週「用事あり」と入れてしまう
です。
ます一つ目の対策として、「リモートで講義を受けられる大学・専攻を選ぶ」です。
リモートで講義を受けられるということは、
- 大学の行き帰りの時間が不要なため、会社を抜ける時間が短くなる=はずせない仕事とかぶる確率が減る
- 在宅勤務中であれば、講義の90分のみ会社を抜ければいいので効率がいい
- 出社しているなど出先であっても、一人になれるスペース(会議室や駅の個人ブース等)を90分だけ借りる+少しだけ仕事を抜けるだけでなんとか講義をうけられる
ということが可能となります。
これによって、講義を欠席しなくては行けない可能性は大きく減り、かつ、講義を受けるための労力もかなり小さくすることができます。
2020年以降、リモートでの講義は多くの大学で取り入れられるようになったため、ぜひ活用できるところを選びましょう。
二つ目の対策として、会社の理解を得て、予定表に「用事あり」と入れてしまう方法です。
そもそも、博士のことを会社に全く言わずにこっそり進めることはかなり厳しいです。
特に講義に関しては、毎週決まった時間に抜ける/休むというのはかなり不自然ですし、
抜ける/休むことに理解を得難いです。
社会人ドクターをやることを決める際に上司に相談して、講義等定期的に仕事を抜けなくてはいけないことに対して理解をもらって、
かつ、
他の人にも予定を考慮してもらうために、先の講義予定を仕事の予定表(Outlookとか)に入れてしまうことが有効です。
在学中に転勤命令が出て遠方になり大学に行けない
在学中に転勤をしてしまうと、研究のために大学に行くことが大変になるためかなり博士取得の難易度が上がります。
はっきりいってしまうと、
「ほぼほぼ博士断念コース」
といっていいと思います。
そもそも在学中に転勤命令が出るということは、
- 自分の博士取得について、会社からの理解が得られていなかった
- 転勤先で博士取得について考慮してもらえるとは限らない(在学中に転勤させる会社であれば、残念ながらそのような考慮はないと思った方がいいでしょう。。)
ということですので、会社と大学の両立についてはかなり厳しいものとなります。
私自身も指導教員から、過去に在学中に転勤になった社会人ドクターの事例はよく聞かされており、
その人は週末だけでなんとか研究を進めようとしたけど結局断念してしまったようでした。。
(「だからお前も転勤して続けられると思うな」という忠告でした)
ですので、これの対策はただ一つ、
「会社からの理解を得て、在学中に転勤が内容にお願いする」
しかありません。
頑張りましょう!
ただ、上司が「転勤はないから大丈夫だよ」といってくれたとしても、
「絶対100%何があっても転勤がない」
とは言い切れませんので、万が一転勤があったとしても博士課程を断念する確率を下げるために、
- 必要な講義,単位数は早めにとっておく
- 大学に行ってやる必要がある実験は早めに終わらせておく(残りはリモートでできることだけにしたい)
ということを心がけて優先順位をつけて進めておいた方がいいです。
②社会人ドクターの両立のために入学前に準備できる5ステップ
ここまでにご説明した「両立が大変なポイント」は、
実はほとんどが入学前にしっかり準備することで対策することができてしまいます。
ここでは、入学前に準備できることを5つのステップにしてまとめました。
その内容は、
- 自身の興味のある分野を少し広めに調べて、候補となる大学・研究室を複数挙げる
- その中から、講義がオンラインでできる大学・専攻を選ぶ
- さらにその中から、リモートでのゼミ参加・研究ディスカッションが可能な研究室を選ぶ
- さらにさらにその中から、研究内容に「リモートで進められるもの」「外部研究機関での試験」を組み込むことができる研究室・研究テーマを選ぶ
- そのことを会社に説明して、最低限の考慮をしてもらえるように説得する
です。
ステップ1:自身の興味のある分野を少し広めに調べて、候補となる大学・研究室を複数挙げる
多くの方は、やってみたい研究分野に対して、「最も合致した一つの研究室」のみを候補として
研究室見学や先生との事前面談を進めてしまっているのではないかなと思います。
(私自身はそれよりも悪く、修士の時と同じ研究室一択で何も調べず進めていましたが。。)
社会人ドクターとして博士課程を完遂しようと思うと、「興味」だけで突っ走って研究室・研究テーマを決めてしまうのは危険で、
「完遂可能性」を高くするためにいろんな条件を検討・選択する必要があります。
そのため、少しだけ広く興味のある研究分野を調べてみて、大学・専攻・研究室の候補をまずは複数(できるだけ多く)挙げられるようにしてみてください。
ステップ2:その中から、講義がオンラインでできる大学・専攻を選ぶ
先の対策で、講義をオンラインで受講可能であれば会社を抜ける・休む等の負担が大きく減ることを説明しました。
このため、ステップ1で選んだ大学・専攻において、オンライで講義を受講可能かどうかを調べ、
オンライン受講可能なところで絞り込みます。
これについては、大学・専攻のホームページだけでは調べられない可能性がありますので、
その場合は、その大学にいる知り合いに聞いたり、大学に問い合わせをして聞いてみてください。
ステップ3:さらにその中から、リモートでのゼミ参加・研究ディスカッションが可能な研究室を選ぶ
講義と同様に、ゼミ参加や研究について先生とディスカッションをする等もリモートでできれば社会人であってもかなり研究を進めやすくなります。
このため、ステップ2で絞り込んだ選択肢の中で、リモートでのゼミ参加・ティスカッションが可能な研究室で絞り込みます。
これは実際に研究室見学に行ってみないとわからないことだと思いますので、
手間はかかりますが、候補に残っている複数の研究室に見学をしに行くことをお勧めします。
ステップ4:さらにさらにその中から、研究内容に「リモートで進められるもの」「外部研究機関での試験」を組み込むことができる研究室・研究テーマを選ぶ
さらに、研究内容についても
- 自宅でもリモートで進められる
- 外部研究機関で実施して成果に入れる
ような内容を研究に組み込むことができれば社会人ドクターでも研究成果を出して博士課程を完遂できる確率が大きく上がります。
このため、このような内容を組み込める研究テーマにできそうな研究室でさらに選択肢を絞り込みます。
この段階で選択肢に残っている研究室はもうかなり少なくなっていると思いますので、
その研究室の先生と面談をしてみて、そこでできそうな研究テーマ・研究内容について考えてみてください。
それを受けて「これなら仕事と両立して進められそうだ」という研究内容にできそうな研究室を選びましょう。
ただ、もちろんその研究内容が
「自身が3年(以上)苦労して取り組もうと思うほど、強い興味のあるもの」
であることも確認してください!
ステップ5:そのことを会社に説明して、最低限の考慮をしてもらえるように説得する
先ほどの対策説明で、
会社からの理解がなく、講義で抜けられなかったり、在学中に転勤があると博士課程を断念する確率がものすごく高くなるとお話ししました。
それを避けるために最後のステップです。
ステップ4までしっかり考えて大学・研究室を決めると、博士と両立するためにどのくらい会社に考慮してもらわなきゃいけないかわかってくるかと思います。
例えば、
- 講義はリモートだから週に1.5時間×2回だけ中抜けする
- ゼミ兼先生との定期相談のために水曜は定時で上がる
- 集中的な実験のために年に1週間まるまる×2回休む
- 卒業延長絶対にさせないから、3年は転勤はやめてほしい
といった感じです。
会社に対して漠然と
「博士もやるから講義で抜けたり研究で休んだりします。終わるまで何年かかるかわかんないけど転勤はやめてほしい」
と話しても、
「多少考慮することはできるけど、限界はあるぞ」
みたいなぼやっとして確証のない回答しかもらえませんが、
上記のように定量的にこのくらい考慮してほしい(しかも会社の負担ができるだけ少なくなるように対策済み)といった感じで話をすれば、
「じゃあそのくらいは会社としても考慮してやろう」
といった感じにうまく理解を得られる可能性がぐっと上がります。
(納得感がありますからね)
なので、会社に話をするのはなかなか気が重いところもありますが、ぜひここまでのステップを踏まえてこの最終ステップもクリアしてください!
これで博士課程完遂の確率が大きく上がります!
③それでも両立ができなそうと思った時に考えるべきこと
先ほど説明した5つのステップの事前準備を踏むことで博士課程を完遂できる可能性はかなり上がりますが、
もちろん完璧ではなく、人によってはそれでもどうしても両立できるイメージがわかないかたもいるかもしれません。
そんな時にどうすべきか?考えのヒントとなることを二つ、上げてみますのでぜひ検討してみてください。
長期履修をして博士課程を最大6年で終えることを考える
まず、多くの社会人ドクターが考えることとして、長期履修制度を活用して長い期間を使って卒業を目指すことです。
博士課程の場合は規定年数である3年の倍まで、つまり、6年まで延長可能であり、
かつ、トータルの学費は3年分から増えない場合が多いです。
(詳しくは各大学の長期履修制度の説明を見て確認してください)
これにより、学費のプラスはほとんどなく多くの年数をかけることができるので、
「この制度を使えば社会人ドクターの両立のイメージが湧いてくる!」という方もいるかと思います。
この制度は使って損はないので、色々な制限のある社会人ドクターはぜひ利用を検討してみてください!
博士課程をやめて、経営系修士課程に行くことを考える
大学に通うことによる学び直しということでは、博士課程だけではなく、経営系修士課程も社会人にとって魅力的な選択です。
経営系修士課程にも種類があり、
- MBAは経営系の王道。経営者としてのマネジメント・お金関係等様々な分野を網羅的に学ぶことができます
- MOT(技術経営)は、経営の中でも「技術開発を新規事業に結びつける」ことにフォーカスした専攻です。経営系修士ですが、理系出身で開発関係や新規事業関係の方が多く在籍しています。
- MIPM(知財マネジメント)は、経営の中でも知的財産のマネジメントにフォーカスした専攻です。国内では今のところ金沢工業大学(虎ノ門)にしかないですが、理系で開発関係の方などにとっては良い選択肢
と主に3つがあります。
「経営系はMBAしか知らなくて、理系の自分には縁がないと思ってた」
という方が多いかと思いますが、そんなことはなく、
理系にとってもMOT(技術経営)やMIPM(知財マネジメント)もキャリアアップのための学び直しとして博士課程に引けを取らない魅力的な選択肢となります。
(実際に私はMOTも取得しています)
経営系修士の場合、(博士課程と比較して)社会人学生にとってありがたい4つのメリットがあります。
- 在学期間が基本的に2年間と短い
- 主に社会人を対象とした専攻であるため、講義は基本的に平日夜もしくは土曜日に集中している
- リモートでの講義やゼミ等、社会人にとってやりやすい制度を採用していることが多い(+先生方もリモートに理解がある)
- 経営系の研究であるため、基本的に”大学に行って実験”ということはなく自宅で進めることができる
このため、大学での学び直しをしたいけど、どうしても社会人ドクターとして博士課程を完遂できる自信がない場合は、
経営系修士のうち、MBA,MOT,MIPMから自身のキャリアに親和性の高いものに路線変更をすることも検討してみてください!
先にも言いましたが、私自身はMOT(技術経営)も社会人学生として修了しており、その経験としてMOTはとても学びが多く、やって良かったなと思っています。
まとめ
この記事では、両立がきつそうという悩みを持った方に、私の経験・情報から、
- 大学と仕事の両立はどんな点で大変なのか
- その大変さを減らすための方法はどんなものか
- 大変さを減らすために、入学前にできること
- 番外編として、どうしてもキツくて無理そう、、という方に向けた提案
について解説しました!
できる限りの事前準備をすることで、社会人ドクター完遂の確率が上がり、卒業までのイメージが湧きやすくなるなと思っていただければ幸いです。
みなさんぜひ社会人ドクターや経営系の社会人大学院生への挑戦を考えてみてください!